神戸地方裁判所 平成8年(ワ)122号 判決 1997年2月26日
本訴事件原告(反訴・別訴事件被告)
神山かず子
ほか二名
本訴事件被告(反訴事件原告)
伊吹運輸株式会社
本訴事件被告
金山日出夫
別訴事件原告
共栄火災海上保険相互会社
主文
一 被告らは、各自、原告かず子に対し金一二四七万九六六七円、原告卓雄及び原告廣瀬に対し各金六二三万九八三三円及び右各金員に対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告かず子は、被告会社に対し、金三三万六〇〇〇円及び内金三一万六〇〇〇円に対する平成五年二月一四日から、内金二万円に対する同年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告卓雄及び原告廣瀬は、被告会社に対し、各金一六万八〇〇〇円及び内金一五万八〇〇〇円に対する平成五年二月一四日から、内金一万円に対する同年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 別訴事件原告に対し、原告かず子は金五〇万三七九六円、原告卓雄及び原告廣瀬は各金二五万一八九八円及び右各金員に対する平成五年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告ら、被告会社及び別訴事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用中、本訴及び反訴事件を通じこれを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とし、別訴事件についてはこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を別訴事件原告の負担とする。
七 この判決の第一ないし四項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴事件
被告らは、各自、原告かず子に対し三〇四一万四二四〇円、原告卓雄及び原告廣瀬に対し各一五二〇万七一二〇円及び右各金員に対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴事件
1 原告かず子は、被告会社に対し、六四万三〇〇〇円及びうち六〇万八〇〇〇円に対する平成五年二月一四日から、三万五〇〇〇円に対する同年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告卓雄及び原告廣瀬は、被告会社に対し、それぞれ三二万一五〇〇円及びうち三〇万四〇〇〇円に対する平成五年二月一四日から、一万七五〇〇円に対する同年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 別訴事件
別訴事件原告に対し、原告かず子は九六万六六四三円、原告卓雄及び原告廣瀬は各四八万三三二一円及び右各金員に対する平成五年五月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、本訴として、後記交通事故(以下「本訴事故」という。)により死亡した訴外神山哲夫(以下「哲夫」という。)の相続人である原告らが、被告会社に対し自賠法三条により、被告金山に対し七〇九条によりそれぞれ損害賠償を求め、反訴として、本件事故により物的損害を受けた被告会社が哲夫の相続人である原告らに対し民法七〇九条により損害賠償を求め、別訴として本件事故による損害を被告会社に支払つた別訴事件原告が商法六六二条により求償金等の支払を求めた事案である。
なお、付帯請求は、本訴事件につき本件事故が発生した日から、反訴事件につき本件事故が発生した日から(但し、一部は第三者に対する損害を支払つた平成五年五月一五日から)、別訴事件につき第三者に対する損害を支払つた平成五年五月一五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成五年二月一四日午後九時三五分頃
(二) 場所 兵庫県多紀郡今田町本荘五九〇番地先国道三七二号線上交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車 普通貨物自動車(以下「被告車」という。)
運転者 被告金山
(四) 被害車 普通貨物自動車(以下「原告車」という。)
運転者 哲夫
(五) 態様 西進していた被告車と北進していた原告とが本件交差点において衝突した。
(六) 結果 哲夫は、頸椎脱臼骨折、頸髄損傷の傷害を負い、即死した。
2 責任原因
(一) 被告会社は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により後記損害を賠償する責任がある。
(二) 被告金山は、交通整理の行われていない、左右の見通しの悪い本件交差点に進入するに際し、当時、対面信号機が黄色点滅を表示していたのであるから、減速徐行して左右道路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件交差点に進入した過失があるから、民法七〇九条により哲夫が受けた後記損害を賠償する責任がある。
(三) 哲夫は、前記の本件交差点に進入するに際し、当時、対面信号機が赤色点滅を表示していたうえ、交通量の多い夜間の国道を横断するのであるから、一旦停止あるいは最徐行して左右道路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件交差点に進入した過失があるから、民法七〇九条により被告会社が受けた後記損害(なお、別訴事件原告に対しては商法六六二条により取得した求償金)を賠償する責任がある。
3 損害保険契約と保険金の支払(乙二ないし五、七、弁論の全趣旨)
(一) 被告会社と別訴事件原告とは、本件事故当時、被告車につき、対人、自損及び対物等の損害保険契約を締結していた。
(二) 右契約に基づき、別訴事件原告は、平成五年五月一四日、立林和男(以下「立林」という。)に対し、二五一万八九八〇円の対物保険金の支払をした。
4 相続
原告かず子は哲夫の妻であり、原告卓雄及び原告廣瀬は哲夫の子であり、哲夫の死亡により、原告かず子が哲夫の債権債務の二分の一、原告卓雄及び原告廣瀬が哲失の債権債務の各四分の一を相続した。
二 争点
1 過失相殺
2 損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲一ないし七、九ないし一六、検甲一ないし一〇、乙一九、検乙一ないし七、被告金山、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、東西に通じる国道三七二号線(以下「東西道路」という。)と南北に通じる県道黒石三田線(以下「南北道路」という。)とが交差する交差点である。
東西道路の最高制限速度は五〇キロメートル毎時である。
東西道路と南北道路との見通しは、建物に遮られ、互いに極めて悪い状況であつた。
本件交差点には信号機が設置されているが、午後九時から午前六時までは、東西道路は黄色点滅、南北道路は赤色点滅であつた。
(二) 被告金山は、被告車を運転し、本件事故直前、時速約七五キロメートルの速度で東西道路を西進し、本件交差点南詰に左方道路から同交差点に進入してきた哲夫運転の原告車を左前方約六一メートルに認めた。
被告金山は、本件交差点の対面信号機が黄色点滅を表示していたが、哲夫が自車に進路を譲つてくれるものと考え、直ちに減速徐行をしないで、かつその動静注視及び安全確認を十分にはしないで、アクセルを離して時速約六五キロメートルに減速したのみでそのまま進行し、原告車がそのまま右方に向かつて進行してきたのを左前方約三四・三メートルに接近して認め、危険を感じ、右にハンドルを切り、急ブレーキをかけたが、二五・三メートル進行した地点で自車の左前部を原告車の右側部に衝突させた。
その結果、被告車は、対向車線に飛び出し、一七・三メートル進行して立林家に衝突して停止し、原告車は、被告車に引きずられ、一四・九メートル西北西の地点で停止した。
その際の被害車のスリツプ痕は、右前輪が一〇・一メートル、右後輪が一八・六メートルであつた。
(三) 哲夫は、本件事故直前、原告車を運転し、南北道路を北進し、本件交差点に進入する際、一旦停止したか否かは明確ではないが、最徐行程度の速度で進入して同交差点を通過しようとして被告車と衝突した。
なお、哲夫は、本件事故当時、友人とともに狩猟用の犬を探しており、少し飲酒をしていたが、その程度は不明である。
2 本件事故については、哲夫及び被告金山の双方に過失のあることは前記のとおりであるところ、その過失割合につき検討する。
右認定によると、被告金山は、減速徐行義務のあるところ、速度超過をしていたうえ、かつ原告車の動静注視及び安全確認を怠つたのであるから、その過失は誠に大きいといわざるをえない。特に、被告金山は、六一メートル先に原告車を発見したのであるから、直ちに減速徐行するか、原告車の本件交差点への進入を発見した地点で時速三〇ないしは四〇キロメートルに減速していれば、原告車との衝突を十分に回避することができたものである。
他方、右認定によると、哲夫は、赤色点滅の表示をしていた本件交差点に進入するに当たり、最徐行ではあつたものの、左右の安全確認義務を十分にしないで本件交差点に進入したものであるうえ、当時、少しではあるが飲酒をしていたのであるから、哲夫の過失も相当大きいというべきである。
その他、哲夫及び被告金山の対面信号機の表示や本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、哲夫と被告金山の過失を対比すると、その割合は、哲夫が四〇パーセント、被告金山が六〇パーセントとみるのが相当である。
二 争点2について
1 哲夫ないしは原告らの損害
(一) 逸失利益(請求額・八〇〇八万五六〇〇円) 六二〇六万五五五八円
(1) 証拠(甲二一、三〇、弁論の全趣旨)によると、哲夫は、本件事故当時、六一歳の男性であり、株式会社神山組(土木建設業)及び有限会社神山石材(石材販売業)の代表取締役をしており、右両社から高額の報酬等の支給を受けていたこと、哲夫の平成五年度町民税の課税の基礎となつた平成四年中の総所得金額は、給与所得の収入金額が一三〇二万円で、その他の所得収入金額が一二〇万円であつたこと(甲二一)、哲夫は本件事故当時、妻である原告かず子と生活を共にしていたことが認められる。
ところで、六一歳の男性の平均余命は、平成六年簡易生命表によると一九・六六年であり、哲夫の右仕事、家庭状況その他諸般の事情を考慮すると、哲夫は、本件事故がなければ、原告ら主張のとおり一〇年間程度就労可能であるが、その生活費としては収入の四〇パーセントを要するとみるのが相当である。
そこで、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除し、哲夫の本件事故当時における逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり六二〇六万五五五八円(円未満切捨、以下同)となる。
13,020,000×(1-0.4)×7.9449=62,065,558
(2) なお、被告らは、哲夫の収入は、同人の稼働収入部分、役員報酬分及び配当等の資産収入部分であるところ、哲夫の死亡後、原告かず子及び原告卓雄が哲夫の前記両会社の代表取締役としての地位をそれぞれ引継ぎ、また原告らが両会社の資産、営業のすべてを引継いでいるから、原告ら主張の月額一四〇万円の稼働収入はなかつた旨主張するが、右認定の一三〇二万円の給与所得収入は、町民税の課税の基礎によるもので十分信用できるものであるから、右主張は、右認定の限度で採用し、その余の部分は採用しない。
(二) 慰謝料(請求額・二六〇〇万円) 二五〇〇万円
本件事故の態様、結果、哲夫の職業、家庭環境等、本件に現れた一切の諸事情を考慮すると、同人の慰謝料としては二五〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用(請求及び認容額・一二〇万円)
弁論の全趣旨によると、原告らは、本件事故により死亡した哲夫の葬儀を執り行い、相当の葬儀費用を支出したことがうかがわれる。
右認定に哲夫の、年齢、職業等、本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、相当な葬儀費用を一二〇万円とみることとする。
(四) 過失相殺
本件事故につき、哲夫に四〇パーセントの過失のあることは前記のとおりであるから、前記損害合計額八八二六万五五五八円の四〇パーセントを減ずると、その後に請求できる金額は五二九五万九三三四円となる。
(五) 損害の填補
本件事故に関して三〇〇〇万円の損害の填補を受けたことは当事者間に争いがない。
従つて、その後に請求できる金額は二二九五万九三三四円となる。
(六) 相続
原告かず子が哲夫の債権債務の二分の一、原告卓雄及び原告廣瀬が哲夫の債権債務の各四分の一を相続したことは前記のとおりである。
従つて、原告かず子が請求できる損害金額は一一四七万九六六七円であり、原告卓雄及び原告廣瀬が請求できる損害金額は五七三万九八三三円となる。
(七) 弁護士費用(請求額・合計五〇〇万円) 合計二〇〇万円
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告かず子につき一〇〇万円、原告卓雄及び原告廣瀬につき各五〇万円とみるのが相当である。
2 被告会社の損害
(一) 車両損害(請求及び認容額・一五八万円)
本件事故により被告車の前部が大破したことは当事者間に争いがなく、証拠(乙六)によると、被告車の修理費用として一五八万円を要したことが認められる。
(二) 第三者被害(請求及び認容額・一〇万円)
本件事故により、被告車は、原告車と衝突後、逸走し、立林所有の家屋前面に衝突し、同家の軒、屋根、縁側及び前庭部の樹木・植木等に損傷が発生したことは当事者間に争いがなく、証拠(乙二ないし五、七、弁論の全趣旨)によると、その損害額が二六一万八九九〇円であつたこと、そのうちの一〇万円を平成五年五月一四日に被告会社が立林に支払つたことが認められる。
右認定によると、被告会社の右支払は相当な損害として認めることができる。
(三) 過失相殺
本件事故につき、被告金山に六〇パーセントの過失のあることは前記のとおりであるから、右車両損害及び第三者被害の六〇パーセントを減ずると、その後に請求できる金額は、車両損害につき六三万二〇〇〇円、第三者被害につき四万円となる。
(四) 相続
原告かず子が哲夫の債権債務の二分の一、原告卓雄及び原告廣瀬が哲夫の債権債務の各四分の一を相続したことは前記のとおりである。
従つて、被告会社が原告かず子に請求できる損害金額は合計三三万六〇〇〇円(三一万六〇〇〇円と二万円)であり、原告卓雄及び原告廣瀬に請求できる損害金額は合計各一六万八〇〇〇円(一五万八〇〇〇円と一万円)となる。
(五) 弁護士費用(請求額・一一万円) 〇円
物的損害については、特段の事情がない限り弁護士費用を相当な損害として認めることはできないところ、本件において右特段の事情を認めるのに足りる証拠はないから、被告会社請求の弁護士費用を認めることはできない。
3 別訴事件原告の求償金
(一) 第三者被害(請求及び認容額・二五一万八九八〇円)
本件事故により、被告車は、原告車と衝突後、逸走し、立林所有の家屋前面に衝突し、同家の軒、屋根、縁側及び前庭部の樹木・植木等に損傷が発生したことは当事者間に争いがなく証拠(乙二ないし五、七)によると、その損害額が二六一万八九九〇円であつたことが認められ、前記損害保険契約に基づき、別訴事件原告が、平成五年五月一四日、立林に対し、右損害金のうち二五一万八九八〇円を支払つたことは前記のとおりである。
従つて、別訴事件原告は、商法六六二条により、共同不法行為者である哲夫に対し、二五一万八九八〇円の求償金債権を有することになる。
(二) 過失相殺
本件事故につき、哲夫に四〇パーセントの過失のあることは前記のとおりであるから、右損害金額を四〇パーセントに減ずると、その後に請求できる金額は一〇〇万七五九二円となる。
(三) 相続
原告かず子が哲夫の債権債務の二分の一、原告卓雄及び原告廣瀬が哲夫の債権債務の各四分の一を相続したことは前記のとおりである。
従つて、別訴事件原告が原告かず子に請求できる損害金額は五〇万三七九六円であり、原告卓雄及び原告廣瀬に請求できる損害金額は各二五万一八九八円となる。
(四) 弁護士費用(請求額・一七万円) 〇円
物的損害については、特段の事情がない限り弁護士費用を相当な損害として認めることはできないところ、本件において右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、被告会社請求の弁護士費用を認めることはできない。
第四結論
以上のとおり、原告らの請求は、被告らに対し、主文第一項の限度で、被告会社の請求は、原告らに対し、主文第二、第三項の限度で、別訴事件原告の請求は原告らに対し、主文第四項の限度で、いずれも理由があるから、それぞれの範囲で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)